さんく2017年03月09日 13:09

さんくは耳が聞こえない。だから言葉が話せない。
年齢は不詳だが、40歳はとうに過ぎているだろう。
私が物心ついた頃には、さんくはもう家にいた。
名前の由来は聞いた事もないが、27歳の頃からいたので、さんく(3×9)なのだろうと勝手に推測している。

さんくは勝手気儘に生きている。
勿論そう見えるだけで、本人に相当の悩みがあることは察しがつく。
さんくに何か文句を言うと、物凄い勢いで怒る。
言葉にならない奇声を発し猛烈な勢いで手振り身振りをするのだが、周りの人たちには何を言っているのかまるでわからない。
だからまた始まったと放っておく。

さんくは健康だが、さすがに風邪はひく。
風邪をひくと、布団を敷いて寝たまま2・3日はトイレ以外起きてこない。
その間ほとんど物も食べない。
起き出した頃はもう治っているのである。
起きるとすぐに従業員に混じりスルメの加工の手伝いをしている。
それが自然で誰も文句を言わない。
風邪をひいたら寝ていれば治るのだと子供心に納得していた。
さんくはお金を貯めるのが好きだった。
身寄りもないさんくには、いざという時に頼れるのはお金だけだったのかもしれない。

気難しいさんくに何故か私は可愛いがられた。
学校の成績が良かったり賞状を貰ったりすると、頭を撫でてめんこめんこをしてくれた。
よくおはじきをしては一緒に遊んだ。
私はビー玉をやりたかったが、さすがにさんくはビー玉はやらなかった。

そのさんくがいなくなった。
前にもそんなことがあったのか、みんなは大して気にかける風もなく、今に帰って来るよと言っていた。
行く先もない筈なのに一体何処に行ってしまったのか。
子供心に探しに行かなくてはとは思うのだが、何処へ行けばいいのかが分からない。
とうとうそのままさんくは帰ってこなかった。

しばらくして、さんくが大事なものをしまっておいた押入れを開けて見たのだが、小さな行李に入れたさんくの宝物はなくなっていて、おはじきだけが散らばっていた。

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